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高松高等裁判所 昭和47年(う)151号 判決 1972年9月07日

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一万五、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収にかかる水平二連散弾銃一丁(昭和四七年押第六六号の一)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、記録に綴つてある高知区検察庁検察官検事苅部修作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

右控訴趣意に対する当裁判所の判断は次のとおりである。

原判決は、「被告人は、高知県公安委員会より狩猟の用途に供するため、水平二連式散弾銃の所持許可を受けるとともに、高知県知事より乙種狩猟免状を受け、銃器を使用して狩猟をなすものであるが、昭和四六年一一月五日午後六時二〇分頃、高知市市師田錦功橋北西二〇〇米附近の農道において、すでに日没後であつて法定の除外事由がないのに、おりから飛び立つた鴨を捕獲するため右鴨に向けて前記所持許可にかかる散弾銃の実包一発を発射して銃猟をなしたものである。」との公訴事実を掲げ、右は銃砲刀剣類所持等取締法一〇条二項三一条の四および鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律一六条二一条一項一号に該当するとしてなした本件起訴に対し、「被告人は、高知県知事より乙種狩猟免状を受け、銃器を使用して狩猟をなすものであるが、日没後である昭和四六年一一月五日午後六時二〇分ころ、高知市布師田錦功橋北西二〇〇メートル附近の農道において鴨を捕獲するため散弾銃の実包一発を発射して銃猟をなしたものである。」との事実を認定したうえ、単に鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律一六条二一条一項一号のみを適用して被告人を前金一〇、〇〇〇円に処し、銃砲刀剣所持等取締法違反の点については、被告人の本件所為は、同法一〇条二項一号の法定の除外事由のある場合に該当し、罪とならないが、右は鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律違反の罪と刑法五四条一項前段の関係にあるものとして起訴されているので特に主文において無罪の言渡をしない旨判断しているのである。そして論旨は要するに、原判決の右判断は、銃砲刀剣類所持等取締法一〇条二項の解釈適用を誤り、同条項違反として有罪とすべきものを無罪としたものであり、破棄を免れない、というのである。

よつてこの点に関する原判決の判断の当否を検討するに、

原判決は「銃砲刀剣類所持等取締法(以下単に銃刀法と略称することにする。)一〇条二項一号にいう鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(以下単に鳥獣法と略称することにする。)の規定により銃猟をする場合とは、同法の銃器使用による鳥獣の捕獲を許された者がする捕獲行為としての銃の発射をいい、右銃猟者がその余の同法律の取締規定にも違反しないことをも要求するものではないと解するのが相当である。」と述べており、それによると銃器を使用する狩猟免状を受けた者は、同法のどのような取締規定に違反して銃猟しても、銃刀法によつては処罰できない、ということになりそうである。しかし原判決は、右判示に引き続いて、「鳥獣法による狩猟あるいは捕獲の許可を受け、その許可の範囲内でする銃猟者を前記銃刀法の罰則適用より除外し、この者に対しては、もつぱら鳥獣法の定める罰則のみをもつて処罰すれば足るとする趣旨と解せられるからである。」、「そうだとすれば鳥獣法一六条違反の銃猟といえども、銃刀法四条一項一号の許可を受け、かつ銃器使用の狩猟免許を有する者がこれにより許された鳥獣の種類、期間、区域においてするものであるかぎり、銃刀法一〇条二項一号の適用があり、同法三一条の四の罪は成立せず鳥獣法二一条一項の罪のみが成立する。」と説明している。そしてこれらの説明によると、その許可の範囲を逸脱して行つた銃猟者の行為は銃刀法の罰則適用より除外する必要がない、ということになるし、銃器使用の狩猟免許を有する者が、これにより許されない鳥獣を対象とし、或はこれにより許されない期間又は区域において銃猟する場合に、鳥獣法一六条にも違反する行為をした場合には、銃刀法一〇条二項一号の適用がなく、同法三一条の四の罪は成立する、ということにならざるを得ないのである。

ところで右判示の「その許可の範囲内でする銃猟者」、「銃器使用の狩猟免許を有する者がこれにより許された鳥獣の種類、期間、区域においてするもの」等の意味は必ずしも明瞭でないが、特別の事由により個別的に許可する鳥獣法一二条の許可の場合は格別、一般的な狩猟免許の場合に、免状毎に狩猟を許される鳥獣の種類、期間、区域等が限定されるというようなことは考えられず、このような制限は、鳥獣法一条の四(鳥獣の種類)、四条(期間)、一〇条一一条(区域)等により一般的に定められているのであるから、右判示の「その許可の範囲内」、「これにより許された鳥獣の種類、期間、区域」というのは、右鳥獣法の諸規定により定められた範囲、右鳥獣法の諸規定により許された鳥獣の種類、期間、区域(若し仮りに当該免許、許可にのみ特に定められた制限があるならばそれも含まれるであろうが、)をいうものであると理解せざるを得ないことになるのである。

そうすると原判決の説明によつても、少なくとも鳥獣法一条の四、四条、一〇条(二一条一項二号)、一一条等の違反と一六条の違反とが重複して存する場合には、銃刀法一〇条二項一号の適用がなく、同法三一条の四の罪が成立することになるのである。

然らば鳥獣法一六条のみに違反して為された銃猟についてはどのように考えるべきであろうか。叙上の検討によると、例えば狩猟鳥獣以外の鳥獣を対象にして日没後に銃猟したり、狩猟期間外の日没後に銃猟した場合には除外事由とはならず銃刀法によるに処罰を免れないが、右の場合ねらつた鳥獣が狩猟鳥獣であれば、或は狩猟期間内に行われたものであるならば、たとえ日没後の銃猟であつても除外事由がありその処罰を免れるというのが原判決の解釈から出てくる結論のようである。しかしこのような区別は全く理由のないことであり、銃砲の所持につて許可を受けた者といえども法定の場合を除き原則としてその発射を禁止し、それに伴う危険を予防しようとする銃刀法一〇条二項の立場からすれば、日没後という危険の虞れのある時間帯における発射が重要であり、そのときねらつた鳥獣が狩猟鳥獣であつたかどうか、その時期が狩猟期間中であつたかどうか等は問題とするに足りないことであるから、その前者が銃刀法違反として罪になるならば、後者の鳥獣法一六条のみに違反する場合も、同様銃刀法の関係で違反になるものといわなければならないのである。

一体銃刀法一〇条二項一号の文言はどうかというと、同号は「第四条第一項第一号の規定により狩猟又は有害鳥獣駆除の用途に供するため猟銃又は空気銃の所持の許可を受けた者が、当該用途に供するため、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の規定により統猟する場合」と規定しており、その「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の規定により銃猟する場合」という文言を「同法の銃器使用による鳥獣の捕獲を許された者がする捕獲行為としての銃の発射をいう。」というように限定して読むことはとうていできない。原判決も後の説明では鳥獣法による狩猟あるいは捕獲の許可を受け、その許可の範囲内でする銃猟者を銃刀法一〇条二項(三一条の四)の罰則の適用から除外するのが同一〇条二項一号の趣旨だといつており、「その許可の範囲内でする」との意味は原判決では必ずしも明瞭でないが、それは前記のように「鳥獣法による取締規定の禁止に違反しない範囲内でする」という意味に解すべきであり、従つて同一〇条二項一号の「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の規定により銃猟する場合」とは、銃猟行為そのものを、行為主体の資格、対象物、期間、区域、時間、場所等種々の方面から規制した鳥獣法のすべての規定(一条の四、三条、四条、一〇条、一一条、一二条、一六条等)に従つて適法に銃猟する場合という意味に解するのが右文理上からも正当である。従つてそのいずれかの規定に違反しておれば、除外事由とならず銃刀法による処罰を免れない、ということになるのである。

ところで論旨も指摘するとおり、銃砲又は刀剣類の所持の態様(携帯、運搬、銃砲の発射等)についての制限規定は昭和三三年に銃砲刀剣類等所持取締法が制定された際に新設されたものであり、それ以前は鳥獣法(当時は狩猟法と称した。)が銃猟等に伴う危険防止等の見地から同法一六条等若干の制限規定を置いていたに過ぎない状況であつた。しかし終戦後次第に銃猟が大衆娯楽化し、銃猟者人口の増加、並びに銃猟者のモラルの乱れ、銃砲取扱いについてのマナーの低下や、人口の稠密化等が目立ち、銃砲を使用した犯罪や銃砲取扱にともなう不測の事故が増加するに至つた。他面銃砲自体高性能化し、その取扱を誤つた場合の危険性も増大したので、従来のようなゆるい取締規定では不十分となつたのである。そしてこのような社会情勢の推移をふまえて昭和三三年に旧銃砲刀剣類等所持取締法が制定されるに至つたのであるが、その際現行の銃刀法一〇条と同旨の規定が設けられ、その後昭和四〇年法律四七号による一部改正の際もその規定が受けつがれて今日に至つているのである。

右銃刀法一〇条の二項は叙上のような取締強化の必要性に対応し、四条又は六条の規定による許可(銃砲又は刀剣類の所持の許可)を受けた者の銃砲の発射を原則として禁止し、同項一号ないし三号の除外事由のある場合にのみ、例外的にその発射を許しているのである。そしてこのような銃刀法一〇条の立法の経緯、その立法趣旨から考えても当裁判所の前記解釈が正当とせられるのであり、鳥獣法一六条の違反行為につき、同法二一条の軽い刑罰規定があるからといつて、取締強化の必要性があつて新設され、罰則も重い、銃刀法一〇条二項三一条の四の規定の適用を拒否すべきものではない。

原判決はまた、「本件のような行為が銃刀法一〇条二項三一条の四および鳥獣法一六条二一条一項一号の双方に該当すると解釈すると、鳥獣法一六条違反の銃猟は必然的に銃刀法の右法条にも該当し、右が刑法五四条一項前段の関係にありとすれば、常に重い銃刀法三一条の四が適用され、軽い鳥獣法二一条一項の当該罰則は同条二項の没収の適用を除いては無意味となること明らかであり、」とも述べている。しかし、鳥獣法一六条は、銃刀法一〇条二項に該当する行為のうち特に情の軽い類型のものを特別法として独立させたというような場合でなく、鳥獣法一六条の適用があるから銃刀法一〇条二項の適用が排除されるとはいえず、さきに立法の経緯として述べたようにこの場合銃刀法一〇条二項で処罰すべき理由は十分にあるのである。そうすると次に、重い銃刀法一〇条二項で処罰するのであれば、軽い鳥獣法による処罰は不要ではないか、との原判決とは逆の懸念が生ずるが、この点についても鳥獣法と銃刀法とは、それぞれ別個の行政取締目的をもつており、鳥獣法一六条違反の構成要件と、銃刀法一〇条二項違反の構成要件との間では一部共通する面もあるが、ちがつた面もあり、とうてい一方が他方に吸収されるものとは考えられず、その他右両法条が法条競合の関係にあるものとも考えられないので、本件は所論のとおり、銃刀法一〇条二項三一条の四および鳥獣法一六条二一条一項一号に該当し、両者の関係は観念的競合の関係であると解すべきである。

以上のとおりであつて、原判決には論旨指摘のような法律解釈適用の誤りがあり、その誤りは判決に影響を及ぼすのでとうてい破棄を免れない。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、当裁判所において直ちに判決する。

当裁判所は原判決挙示の証拠により、前記公訴事実と同一の事実を認定する。

法律に照らすと被告人の判示所為は銃砲刀剣類所持等取締法一〇条二項三一条の四並びに鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律一六条二一条一項一号に該当し、右は一個の行為にして二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段一〇条により重い銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪の刑を以て処断すべく、所定刑中罰金刑を選択し、所定金額の範囲内で被告人を罰金一万五、〇〇〇円に処し、右罰金を完納できないときは刑法一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、なお没収につき鳥獣保護及及狩猟ニ関スル法律二一条二項を適用し、主文のとおり判決する。

(目黒太郎 宮崎順平 滝口功)

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